事業構造改革に手応え。5期ぶりの黒字転換へ
新経営体制で臨んだ第50期は、経営資源を最大に活かし、持続可能な成長の礎を確実なものとするため、資本業務提携や不採算部門・製品群の整理等、事業の選択と集中を進めたほか、本社機能のスリム化、当社初となる希望退職募集等を通じて事業規模に見合った人員規模への適正化など、事業構造改革に取り組みました。事業全体の効率化を進める活動が下期以降、大きく効果を発揮し、連結売上高は266億62百万円と前期比微増にとどまったものの、買収費用や事業整理に伴う一時的な費用の発生を賄ってなお、税引後当期純利益1億84百万円と黒字を確保するに至りました。
事業別では、連結売上高の7.6割を占めるモバイルデータソリューション事業の売上高は前期比7.3%増の204億13百万円でした。BlackBag社の買収費用が発生したものの、前期計上のあった連結子会社Cellebrite社の第三者割当増資費用分が減少し、セグメント利益9億13百万円となりました。
エンターテインメント関連事業は、コロナ禍の影響に加え、パチンコホールコンピューターシステム事業(株式会社SUNTAC)譲渡により、売上高は43億41百万円と前期比19.8%の減収となりましたが、業務の効率化や費用の見直しによる収益性向上と、当社が受託開発した遊技機メーカー様のタイトルがヒットしたことにより、セグメント利益は同98.5%増の5億7百万円と大幅増益となりました。
新規IT関連事業は、主にM2M通信機器の販売が好調に推移し、売上高17億46百万円と増収となりました。 AR事業は、ソリューション型ビジネスモデルとして体制の見直しを図ったことで損失減少、その他、O2O事業の事業譲渡をはじめ、組織の費用構造の見直し効果もあり、セグメント利益は98百万円と黒字転換しました。
その他セグメントのゲームコンテンツ事業の売上高は、海外への拡販を行ったものの、「俺!プロジェクト」アプリの提供終了等により、売上高は1億6百万円の減収となりましたが、体制・開発方法の見直し等の費用低減により、35百万円の利益を確保しています。
営業活動によるキャッシュ・フローは大幅改善、財務活動によるキャッシュ・フローもストックオプション行使による収入、新株予約権付社債の株式転換等により、大幅増加となり、財務基盤も強化することができました。ただし、サン電子単体では、税引後当期純損失83百万円という結果であり、新たな中長期計画の戦略構想を進める中で、見えてきた成長のための具体的施策を着実に実行に移していくことが重要と考えています。
米国ナスダック上場に向け、子会社Cellebrite社がTWCと合併
世界的にデジタル・インテリジェンス市場が広がりを見せる中、成長著しいCellebrite社の事業成長をさらに加速させ、リーディングカンパニーとするべく、優位技術の開発投資に必要な資金の調達手法を従前より検討してきました。ソフトウェア企業に対する評価が高い米国ナスダック市場において、未公開の事業会社を買収する目的で上場しているSPACと呼ばれる特別買収目的会社への投資が活況であること、また、それに伴う資金調達手段がマーケットからも認知されてきたこと等を踏まえ、De-SPACと呼ばれるCellebrite社とSPACとの合併による上場を進めると決断しました。
現在進めておりますDe-SPAC完了時には、Cellebrite社はTWC社が保有する資産480百万米ドルを最大で調達することになり、当社も配当金及び株式譲渡により、税引前約280百万米ドル(約310億円)の資金を調達する見込みです。調達した資金をCellebrite社及び当社の事業に投資することで更なる事業成長につなげることができます。当社のCellebrite社株式保有割合は40%程に低下し、Cellebrite社は持分法適用会社となる可能性がありますが、引き続き大株主として重要な意思決定に関与しながら、従前同様に協働関係を継続していきます。
サン電子の発揮すべき強みと目指す成長の方向性
当社は、「夢・挑戦・創造」をスローガンに新たな事業への挑戦を続けてきました。情報通信・デジタル技術とエンターテインメントの分野でこれまで蓄積した多くの技術は、これからの社会ニーズにマッチした新たな製品、サービスを生み出すための土台となっています。また、ハードウエアとソフトウエアの両方の技術者とノウハウを有していることも特徴と言えます。ソフトウエア会社だけ、ハードウエア会社だけではできないトータルなソリューション提供が可能であること、お客様からも高い評価をいただいている商品の信頼性(高信頼)、そして常にベンチャースピリットを持ち、創業時から脈々と受け継いできた挑戦のマインド、これらがサン電子の強みであると考えています。
通信事業を主要事業と位置付ける当社にとって、コロナ禍による非接触、リモートワークの推奨等、社会環境が大きく変わりつつある今こそ、通信インフラの高度化、リモートコントロールの推進等で、社会インフラの向上に寄与できる、技術力、知見を発揮できる機会であると認識しており、特に遠隔支援など、リモートという新しい形に対応する製品・サービス需要増に大きなチャンスがあると捉えています。また、社会的需要が高まりつつあるDX実現に向け、顧客や社会のニーズに沿った製品やサービスを提供できるソフトウエア技術力を駆使し、新たな価値を提供していきたいと考えています。
一方で、どんなに技術優位性のある商品であっても、市場のニーズにマッチしなければ売れません。マーケティングの強化、強力な販売パートナーとの連携強化を進め、当社の持つ技術を着実に市場に広げていく体制を整えることが必要であると考えています。そのため、独自の差別化技術による事業拡大を指向する戦略的投資の実行に加え、M&Aや外部との技術提携、大学や研究機関との共同研究の拡大等により、エッジAI等の技術力向上、IoT関連とその周辺領域での技術革新にチャレンジしながら、最先端のIT技術を追求することで収益性・成長性ともに高く維持できる会社を目指していきます。
さらに、持続成長可能な経営体質としていくには、より原価を意識したモノづくりが必要であると考えており、管理会計による収益の見える化を推し進め、利益創出に対する意識変革を促すとともに、事業の選択と集中の基準を明確にし、常に最適化を図りながら、社員の旺盛な挑戦マインドをさらに掻き立てるような環境を整備していきたいと考えています。
第51期は利益体質企業への完全回復を図りつつ成長戦略の基盤整備を促進する1年に
今期は、経営として、やるべきことを着実に実行に移してきました。事業構造改革の推進にあたり、人事制度も年功序列主義から成果主義に変更したことで組織の活性化に繋がり、前向きに取り組む雰囲気が出てきたことも大きな後押しとなりました。厳しい環境から事業の取捨選択を行った結果、売上規模は大きく減少するものの、利益率を大幅に改善させることができました。一方、実施した事業売却についても、その事業がより成長を目指せる譲渡先を選定したことで、その成果が表れ始めていると聞いています。こうした各事業の成長をより意識した取り組みを推進したことで、のちに、4年連続の赤字体質から黒字体質の事業構造へ転換するターニング・ポイントであった、といえる1年となったのではないかと考えています。今期に得られた手応えをより確かなものにすべく、第51期は、さらに構造改革を進展させ、再び成長軌道へ回復させるための基礎作りの1年と位置付けています。引き続きコロナ禍の不透明感で出口が見えない状況にありますが、どのような経済環境・社会環境であっても、着実に黒字が出る企業体質を構築し、次期の中長期経営計画に向けた基盤整備を進めていきます。
足下でのキャッシュ創出能力は、モバイルデータソリ ューション事業が高く、エンターテインメント事業は安定的、新規IT関連事業ではM2M事業が黒字化を達成した段階で、今後、さらに安定的にキャッシュを創出できるよう、商品群の高機能化・差別化のための投資検討を進めていきます。
モバイルデータソリューション事業
情報化の進展とともに犯罪捜査や裁判時においてデジタル端末からの情報が重要な証拠になる中、モバイルデータソリューション事業は、社会の安心安全を支える一翼を担う事業であると自負しています。データの抽出だけでなく、今後は解析を必要とするデータの増大化、複雑化を見据え、データの分析・解析をするデジタル・インテリジェンスへ経営資源を集中し、より新たな安心安全の提供に努めていきます。
エンターテインメント関連事業
依然として厳しい状況のパチンコ業界ですが、開発・製造の業務効率化により収益性の向上を進めるとともに、業界の環境変化に対応する製品サービスの提供及び規則改正により新しい規則の遊技機に入れ替わっていく中での遊技者の変化を先取りした商品の提供を、遊技機メーカー様と一体となり目指してまいります。
新規IT関連事業(M2M、AR)
当社の強みである通信情報機器関連のM2M分野を強化し、IoTデバイスを軸とした新製品の開発スピードを加速していきます。特に、市場の伸びが期待できるIoT領域において、通信ルータにAI機能を付加し、モニタリング分野の製品の拡大を図るとともに、通信デバイスを組み合わせた製品の用途拡大を図ることで、よりお客様の利便性向上に貢献しながら、確実に収益性を上げる業務改善と売上規模拡大に向けたマーケテ ィング強化を推進していきます。
業績予想については、重要な部分において不確定要素が大きいため、開示が可能となり次第、速やかに公表いたします。
株主の皆様へのメッセージ
サン電子が目指す姿は、社員がいきいきと働き、よりよい社会の実現に向けた飽くなき挑戦を通じて社会に価値を提供し続けることができ、社会から必要とされ続ける会社です。そして、そのためには会社として、しっかり利益を生み出す体質でなければなりません。当面は、事業規模の拡大が課題となりますが、適切な経営判断と事業ポートフォリオの管理、また社会環境の変化にいち早く対応した商品、サービスを提供できる体制を構築し、ITセキュリティ分野をはじめ、新たな事業の柱を確立するため、技術資産を活用した新規事業の立ち上げや、事業間シナジーの追求、また事業譲受、M&A、共同出資会社の設立、大学や研究機関との協同研究を利用した新規事業化、新規事業や商材の企画開発、最先端技術の宝庫であるイスラエルのスタートアップ企業との連携模索等、オープン・リソースの活用による協業関係を軸とした新しいビジネスモデルの構築など、新しい事業の芽を次々に生み出す組織となることが、持続的成長につながると考えています。
そのための成長投資については、事業活動により創出されるキャッシュの他に、前述のCellebrite社の米国ナスダック市場への上場により得られるキャッシュを原資とし、意思決定のスピード感は大事にしつつ、事業の収益性、資本効率の観点から慎重かつ着実に実行してまいります。
株主還元につきましては、従来、安定的な配当方針としておりましたが、第50期より、事業の成長性と収益性及び中長期のフリーキャッシュ・フローの推移を考慮して配当性向を勘案し、業績に応じた積極的かつ弾力的な利益配当を行っていく基本方針に転換しています。高収益企業としての事業規模の拡大を目指すことが、株主価値を向上し、株主の皆様に大きく報いることに繋がると考えています。第50期につきましては、1株当たり10円の期末配当をさせていただきます。株主の皆様におかれましては、新生・サン電子へご期待いただくとともに、引き続きご支援賜りますようよろしくお願い申し上げます。