第48期の業績に対する総括と評価
従来、売上高80億−90億円、営業利益6億−7億円程度を安定的に稼ぎ出していたエンターテインメント関連事業が市場縮小・業界規制が続くなかで大きく収益が落ち込むことを想定し、引き続き同事業を安定基盤としながらもこれを補う新たな収益基盤となる新規事業への先行投資を積極化してきました。高成長が期待できるモバイルデータソリューション事業、新たな成長の取り込みを可能とするゲームおよび新規IT事業を新たな収益の柱として育て、事業ポートフォリオの多様化を意図しています。
第48期は新規事業立ち上げによる収益力の向上を目指していましたが、いずれも本格的な立ち上がりには至らず、またリリース目前にあったARの「AceReal One」やVRゲームコンテンツ等が開発の最終段階に入り、投資額が大きく積み増し、サン電子本体の営業損失が計画より約10億円膨らんでしまったことで、モバイルデータソリューション事業を展開する連結子会社Cellebrite社の業績が想定以上の成長を示したにも関わらず、黒字転換を果たすことができませんでした。
財務状況について
サン電子単体の業績は3期連続での赤字という非常に厳しい状況にあるなか、現段階でもっとも成長が期待され、継続的な開発投資を必要とするCellebrite社に、モバイルライフサイクル事業の売却益と前受収益金の拡大によりキャッシュが積み増したことは評価できるのではないかと考えています。ただ、前述のとおりAR等で開発投資がかさんだことにより第48期は借入金が前期に比べ約2倍となる38億円にまで膨らみました。また、現預金は前期と大きく変わらず、23億円程度を維持していますが、これはCellebrite社のビジネスが契約すると向こう数年のサービス費用を事前に受け取るビジネスモデルとなっており、この前受収益金を完全にリスクが解放されていない負債であるとの考えから、これらを考慮した上で、適切な現預金の保有を維持しています。
開発投資の原資を借入により充当した背景としましては、グループ全体で見れば、Cellebrite社が利益を大きく伸ばし、当社の事業ポートフォリオのなかで稼ぎ頭でもある訳なのですが、Cellebrite社自身が今のポジションを維持・拡大する為の継続的な投資を要しますので、ここで得た原資を振り向ける必要がありました。ちなみにCellebrite社では今後も、売上高研究開発比率20%を目安とした投資を継続していく考えです。また、サン電子自身としても、開発投資の原資は事業活動により創出したキャッシュで賄うことを基本線としておりますが、低金利の環境下であること、また資本コスト低減の観点から、借入による調達が最善であると判断したことによるものです。
CFOの視点から考える黒字化への道筋について
第49期はこれまで開発投資を積極化してきた新規事業の将来性・成長性をしっかり見極め、サン電子本体の収益力を早期に取り戻すことが必須であると考えています。
まずモバイルデータソリューション事業では、成長をいかに最大化させるかがもっとも確度の高い取り組みになると考えます。世界的に高水準で市場が成長し続けるなかで、同事業の好調もしばらく続くと見ており、いずれ機器販売は頭打ちになる時期が来る可能性はあるものの、機器導入に伴い発生するソフトウェア使用料等のストック収入は継続し、また次なるドライバー製品となるアナリティクスシステムをはじめ、プロダクトミックスの効果もあり、将来的にも年率15%程度で拡大していくものと見ています。第49期は、前期までカウントされていたモバイルライフサイクル事業の売上高約15億円がなくなるため、売上成長幅が小さくなるように見えますが、利益面ではさらに大きく全体に貢献する規模になると見込んでいます。
安定的な収益源と位置付けるエンターテインメント関連事業では、パチンコ市場縮小が叫ばれるなか、依然20兆円規模の市場を維持しています。さらに管理遊技機の登場などによる環境変化も予想され、まだまだ成長の余地はあると見ています。市場の将来予想だけではなく、実態を見ながらの柔軟な判断が必要ですが、これまで関係を培ってきたお客様と協力し、業界順位を高めることで残存者利益の獲得を狙います。またモバイルゲームの領域で培ってきた技術力のシナジーも考えながらコスト削減も実行し、利益確保につなげていきたいと考えています。
そして、キャッシュ創出のみならず、新規事業も開発フェーズが終わり、在庫が膨らんでいる状況にあるため、適切在庫の見極めや長期サイトでの回収を行わないなど、キャッシュコンバージョンサイクルを短縮する取り組みもCFOとしての責務であると考えています。
さらに、直近3カ年は新たなる収益基盤を担う新規事業の確立に向け、先行投資を積極化してきましたが、第49期は損失の水増しを防ぐという意味でも、将来の成長性、企業価値への影響を慎重に見極め、次なる成長ドライバーとなる事業の選択と集中を視野に入れる時期になると認識しています。中期的に営業利益10%の実現を1つの指標とし、各新規事業の強み、戦い方をしっかり吟味しながら表に見える業績数値だけでなく前提となる先行指標の議論を十分に深めた上でKPIを設定し、それに基づきPDCAを回す体制を整え、見極めにつなげていきます。
ステークホルダーとの対話と株主還元について
近年の当社は、3期連続で業績予想の修正を公表しており、市場に参加されている投資家の方々からの信頼を回復するためにも、リスクを管理するだけでなく、リスクの認識とそれに対する打ち手をしっかりと伝えることが重要になると認識しています。現在、業績予想をレンジでの発表に変更していますが、これは先行きが見えづらい新規事業を複数抱えるなかで、リスクの振れ幅を反映させた開示とすることでリスクに対する認識を共有いただく取り組みです。第48期は計画範囲のなかでも上辺での着地とすることができ、公表数値への信用を少しでも高めることができたのではないかと考えていますが、ここに中期的なビジョンを明確に示し、情報格差を埋めることで、さらに信用を高めていきたいと考えています。
株主還元については、基本的に株価の上昇が最大の還元であるとの認識でおり、事業成長による企業価値の向上が市場に評価されることを目指します。配当については、現段階では安定配当を維持し、業績が厳しい時でも一定の配当を実施しながら利益創出額に応じて増配を実施することを基本方針としていますが、事業構造が大きく変容していることを鑑み、連結業績にて安定的に利益を創出できるフェーズに入った後は、配当性向を示しながら収益額に応じた配当方針へと変更していくことも視野に入れていきます。